呼吸について

①個体レベルの呼吸について

 

多細胞生物の多くは、内部細胞の呼吸のために外界から酸素を送り届ける必要がある。外界が水か空気かによってその仕組みは異なる。水生の動物では体表からの酸素の拡散では間に合わなくなり、水の溶存酸素を取り込む呼吸器が必要になる。それには鰓が用いられる。表面積を出来るだけ大きくした鰓小葉の間に水を通し、接した細胞へと酸素を取り込ませるのである。この効率を上げるため、鰓蓋などの動きにより水流を起こす。内部の組織への酸素の運搬は循環系が受け持つ。比較的小さな体の場合は循環系も単純で、開放型で、ポンプすなわち心臓は発達しないが、魚類などのように大きな体になると閉鎖型の血管系を持ち血液には酸素運搬体のヘモグロビンなどの血色素を持つ。陸上に進出すると、空気から酸素を取り込む必要が生じ、乾燥を避けるために内部をくぼませることで表面積を増やし、気管や肺が生じる。昆虫類などは、からだも小さいので気管が枝分かれして分布し、外界からの酸素を組織まで送り届ける。爬虫類・鳥類・哺乳類は胚を作り、ろっ骨を動かす呼吸運動によって空気を出し入れし、酸素と二酸化炭素の交換を促進している。肺は多くの肺胞からなり、ヒトの場合、その表面積は体表の50倍にも及ぶ。

 

②細胞レベルの呼吸について

 

呼吸は細胞が活動するためのエネルギーを有機物分解により調達する働きである。呼吸基質は細胞が取り込む様々な有機物であるがもっとも代表的なものはグルコースである。人の場合、血液中のグルコース濃度はいつも0.1%程度に保たれている。細胞内では細胞質基質の多種の酵素によって解糖系が進行し、グルコースはリン酸化された後に分解され炭素3個のピルビン酸2分子を生じる。ピルビン酸はミトコンドリアマトリックスに入り、脱炭酸・脱水素を受けてアセチルCoAになった後、オキサロ酢酸と結合してクエン酸になり、クエン酸は何種類もの脱水素酵素の働きで変化し再度オキサロ酢酸になる。この過程はクエン酸回路とよばれ、二酸化炭素を発生する。また、多数の水素が補酵素と結合した形で得られる。解糖系やクエン酸回路で脱水素化された水素は、電子と水素イオンに分かれ電子はクリステや内膜に存在する電子伝達系に渡され、シトクロムと呼ばれるたんぱく質などを伝達され、最終的には酵素に受容され、水素イオンも加わり、水を生じる。電子伝達系で多量のエネルギーが解放され、ATPが合成される。呼吸の全過程で1グルコースから38分子のATPが生成される。クリステにおけるATPの生成は解放されるエネルギーを用いて水素イオンをマトリックス側から膜間腔へ輸送することで水素イオンの勾配がつくられ、ATP合成酵素が水素イオンの勾配によって駆動しATPを合成する。